前回ギターのレコーディングの話でスタートしながら、ベース・アンプ・シミュレータの話で終わってしまいましたので、今回はギター・アンプ・シミュレータの話を中心に、私の自宅レコーディングでのギター録音について書いておきます。とは言え、ギターは私のメイン楽器ではないのでそんなに自宅レコーディングでギターの録音を沢山しているわけではないのですが、最近ギターを弾く機会も増えてきましたので、ここで書き留めておくことにしました。

私が自宅録音を始めてから20年以上は経っていると思うのですが、考えてみたらちゃんとエレクトリック・ギターの録音をやり始めたのはごく最近のような気がします。自宅で打ち込み録音を始めた当初はエレポップ系みたいな、シンセ中心の打ち込みポップスが多かったせいもあって、ギターはあってもクリーン系のカッティングくらいでした。当時はエレクトリック・ギター自体も、学生時代に購入したAria ProIIのテレキャスターをフロント・ピックアップをハムバッカー(PAF)に交換して改造したものしか持っていなかったというのもありましたし、エフェクターもそれほど持っていなかったので、直接ミキサーに突っ込んでライン録りできるような曲しかやっていなかった気がします。エフェクターは元々ベース用に買ったものは持っていましたが、コンプレッサーやフェイザー、フランジャーにコーラスくらいだったでしょうか。ギター・アンプも持っていなかったので、Vesta FireのJ-1Aという1Uサイズのプリアンプを中古で購入して使っていました。今のマンションに引っ越して自宅の一室をスタジオとして整備し始めた前後に、BOSSのME-8Bというマルチ・エフェクターを購入したのですが、あまりギターを弾く機会が無かったため、それほど出番がなく、自分としても余り印象に残ってないという、勿体ない状態になっていました。未だ持っているはずですが、家の中で行方不明になっているので、写真を撮ることが出来ませんでした(^_^;)>

Line6 PODxt PRO

現在のコロナ禍同様に、世の中が「自粛」ムードでいっぱいになり、エンタテインメント業界はいろいろなイベントが中止になってしまったのが、2011年の東日本大震災の後でした。私は当時、制作部門から宣伝部門に異動になってきたばかりで、イベントが中止になったのはもとより、新聞やテレビといったメディアもエンタテインメントよりもこの未曽有の大震災に関する報道を優先するという姿勢を取り、めっきりと仕事が暇になってしまった時期でもありました。そのため、私はこの時期を利用して自宅レコーディングのための機材や、ソフトウェア、プラグインなどを物色し、自宅スタジオの環境をグレードアップしようとしたのでした。その中で、アンプ・シミュレータのプラグ・インもかなり導入し、実際のレコーディングに活用していました。それらのプラグイン・アンプ・シミュレータについては次の機会に譲ることにして、今回はその後に導入したハードウェアのアンプ・シミュレータLine6 POD XT PROと、ギター・レコーディングの手法について書いてみます。この頃にはギター自体もアリアのテレキャスだけではなく、Gibson Les Paul Professional(シカゴのテリー・キャスが71-72年頃に使っていたギター)やFender Japanのストラトなども入手して、宅録時に自分でギターも弾くようになってきていました。

現在私が愛用しているギター・アンプ・シミュレータ、Line6 POD XT PROは2003年の発売ということなので、既に発売以来18年が経っているわけですが、その間にモデル・チェンジもかなり行われていて、POD X3、POD HDを経て、現在はPOD GOという機種が現行機種ということになります。その間にLine6自体が技術者の流出などもあって、2014年にはYAMAHAの傘下に入りました。このPOD XTシリーズはある意味PODシリーズが最もPODらしさを表現していた時期の機種と言えるかもしれません。POD XT PROでモデリングされているアンプはというと、Budda Twinmaster 2×12 combo, Fender Tweed Deluxe, Fender Bassman, Tweed Champ, Fender Deluxe Reverb, Fender Twin Reverb, Gretch 6156, Hiwatt DR-103, Marshall JTM-45, Marshall Plexi Super Lead, Marshall Brit JCM800, Marshall JMP-1, Matchless Chieftain, Matchless D-30, Mesa Boogie Dual Rectifier Solo Head, Mesa Boogie Mark II c+, Roland Jazz Chorus JC-120, Soldano SLO-100, Supro S6616, Vox AC15, Vox AC30といった機種に、Line6オリジナルのアンプを加えたラインナップとなっています。これに加えて、Line6のウェブサイトでライセンスパックを購入することによって、モデリングされた機種を増やすことが出来るようになっていました。POD XT PROの場合、Power Packはプリ・インストールされていて、Bass Expansion PackとCollector Classics Pack、Metal Shop Packを導入済みですので、アンプの種類は結構多彩になっています。(使うモデルは大体決まってるけど)

POD XT PROとmodel Pack
POD XT用のモデルパックは未だ入手可能で右はCollector Classicsを搭載したPOD XT PRO

私がPOD XT PROを導入しようと考えたきっかけは、Hiwatt DR-103のモデリングがあることが一番大きかったのですが、70年代King Crimsonのカバーをやるのに、フリップ先生が当時使っていたHiwattのモデリングがあるなら、音作りもそんなに手間ではないかと思ったからでした。しかし実際にはそんなに簡単ではなかったというのが正直なところでした。それとCollector Classics Packを導入したのはFender Dual Showmanのモデリングがあったからでした。Hiwatt DR-103はECC83, ECC81とパワー管にEL34を使用した真空管アンプでギターにもベースにも使える”All Purpose”が売りの100Wアンプ、Fender Dual ShowmanもECC81(12AT7),ECC83(12AX7),6L6GCを使った真空管アンプということで、この辺りの真空管アンプのサウンドが割と私の好みだったりします。しかしこれらの100W超級のアンプの実機を使うのはなかなか現実的ではないので、PODの出番、というわけです。追加のライセンス・パックは未だLine6のホームページで販売していますので、入手は可能で、購入後Line6 Edit(またはLine6 Monkey)ソフトウェアを使ってオーサライズしてあげる必要があります。上の写真ではFender Dual Showmanをモデリングした”Double Show”というアンプ・モデルを読み込んだところです。Line6のアンプのモデリング名は商標権の問題からか、Twin Reverbが”Double Verb”、Deluxe Reverbが”Blackface Lux”、Hiwatt DR-103が”Hiway 100″などと微妙に変えた名称になっており、時々「あれ、これ何のモデリングだっけ?」と悩んでしまうことがあるのが難点ですかね。

Hughes&Kettner Tube Meister18
Hughes&KettnerのTube Meister 18でスピーカーを鳴らす

Line6のアンプ・シミュレータについてのよく見かける意見として「デジタル臭がある」ということがあります。「そりゃあデジタル・モデリングしているのだからデジタルっぽいと言われればそうかも」と思いながら、じゃあデジタル・モデリングで音作りをした後に実際にギター・アンプでスピーカーを鳴らしてそれをマイクで拾って録音しよう、と考えて導入したシステムが上の写真のHughes & Kettner Tone Meister 18チューブ・アンプとAxeTrak for Guitarというマイク内蔵スピーカー・キャビネットの組み合わせです。Tone Meister 18は12AX7を2本とEL84を2本使った小型チューブ・アンプで、18W出力、クリーンとリードの2チャンネル仕様となっています。これをAxeTrakにブチ込むことで、実際に6インチEminnenceスピーカーを鳴らして、内蔵ダイナミックマイクで収録することが可能になります。密閉型のキャビネットなので、外側には音漏れがほとんど聞こえないくらいで、これならマンションの一室でもアンプを鳴らしてギター・サウンドが録れるという言う優れもの。スピーカーを鳴らしてマイクで録るという空気感が私は気に入っています。Tube Meister 18も3バンドのEQとマスター・ボリューム、ゲイン・コントロールがそれぞれのチャンネルについているだけというシンプルさですし、AxeTrakもHigh Frequency Roll-Offスイッチ(広域成分をカットして音に厚みをつけるスイッチ)というのがついているだけなので、基本的に音作りはPOD側で行い、クリーンか歪み系かによってチャンネルを使い分けて鳴らすだけという使い方ですが、これで大分デジタル臭は緩和されているのではないかと思っています。それにHughes & Kettner独特の青いイルミネーションはやはりカッコいいですね。

やはりディストーションは実機に限る?

ところで、このPOD XT PRO + Tube Meister 18 + AxeTrakの組み合わせで “Red”を録音し始めたところ、ディストーションのかかり具合が浅いというか、思ったほど歪んでくれないことに気が付きました。それではということで、ディストーションだけ実際のコンパクト・エフェクターを通して歪ませてみようということで用意したのがこの2機種、electro harmoics BIG MUFFとPro Co RATでした。フリップ先生はGuildのFoxey Lady というファズ・ペダルを使っていたことで有名ですが、このFoxey Ladyはelectro harmonics社がGuild社にOEM供給していたモデルで中身はBIG MUFFと全く同じものでした。強力に歪む独特のサウンドにフリップ先生もHiwattのアンプとの相性の良さを当時のインタビューで語っていました。BIG MUFFとRATで歪ませたサウンドについては前回紹介したmusicTrackにアップロードした”Red“でご確認ください。

やはりだんだん話が長くなってきたので、プラグイン・ソフトウェアとしてのアンプ・シミュレータについてはまた次回書いていきたいと思います。それではまた!

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