かつてレコード会社でレコーディング・ディレクターをやっていた時代に、ギターのレコーディングについてはある程度こだわりを持ってやっていました。ディレクターになりたての頃は、当然何もわからずやっていたのでそんなに意識していなかったのですが、低予算のレコーディングが多かったせいもあり、レコーディングでやってくるスタジオ・ミュージシャンのギタリスト、ベーシストの録音は当時大体ライン録りでした。当然エフェクターで歪ませたりして「らしい」音にはするのですが、それまで自分がライブやレコードで聴いてきて「ギターのサウンドはこういうもの」という理想とするサウンドはあったものの、なかなかそれに近づかなかったというのが正直なところでした。勿論、ギタリストはそれぞれに自分のオリジナルのサウンドを持っているので、こちらが勝手に思っている理想のサウンドと、ギタリストの方の思っている理想のサウンドが食い違うということはありますが。そんな思いを持っていたディレクター時代に出会ったギタリストの一人が元もんた&ブラザーズのギタリストだった角田順さんでした。角田さんをレコーディングに呼んだ際に、マーシャルのアンプをスタジオに持ち込んでガンガン鳴らすそのトーンがまさに私の求めていたサウンドでした。ギターをアンプで鳴らし、スピーカーから出るサウンドをマイクで拾う、その当たり前の行為が、ギターをギターたらしめているというのがよく分かりました。以来、私のレコーディング・セッションに来てもらうギタリストさんにはアンプを必ず持って来てもらうようになりました。
レコーディング・ディレクターを退いてから、私はサッカー3級審判の資格を取り、東京都社会人リーグのチームに所属していたこともあり、週末はサッカーの予定が入ることが多くなったため、音楽活動は自宅スタジオでの多重録音がメインになっていきました。バンド活動は90年代にやっていたビッグ・バンド以来、レギュラーではやっておらず、たまに人のライブを手伝うくらい、という状況なので、自宅スタジオの機材を揃えてそれなりの音源を制作できるような環境を構築したというわけです。自宅スタジオですので、ギターアンプをガンガン鳴らして録音というのはなかなか出来にくいこともあり、また当初自宅録音を始めた当時は、学生時代にやっていた曲で、シンセサイザーとかの機材の関係で十分にオリジナルを再現できなかった楽曲を再現してみようということに重きをおいていましたので、専ら大学時代にやっていたウェザー・リポートやハービー・ハンコックとかの楽曲のカバーをやっていました。ですのであまりギターをガンガン鳴らすという必要はなく、アンプ・シミュレータもどちらかというと、ベース・アンプ・シミュレータから入った、という感じですね。
バンドをやっていた頃に使っていたのが、上の写真のASHLYのプリアンプBP41とElectro HarmonixのパワーアンプPOWER SLAVEの組み合わせでした。ベース・キャビネットはTrace Elliotを使っていましたが、なかなか大掛かりなセットだったので、楽器車で運搬する必要がありました。当時はレコード会社にいたこともあり、知り合いの事務所から「今度バンドが解散するので楽器車が不要になりましたけど要りませんか?」とオファーを受け、キャラバンを超格安で譲ってもらったのでした。当時私はレコーディング・ディレクターとして、ディレクションをするだけでなく、必要とあればシンセサイザー類のオペレータもやっていて、自分専用のシンセサイザー・ラックを持っていたので、そのラックの運搬に楽器車を使っていました。レコーディングのコスト節約が主な目的でしたが、今となっては懐かしい話です。このベース・アンプ・ラックはビッグ・バンドのブラス陣の音量に対抗するためと、ジャコのようなヒューマンでアコースティックなベース・サウンドを目指していたので、楽器とアンプのトータルで音色を作る、ということで、ある程度の音量でスピーカーを鳴らすためセットで使用していたものです。本当はacoustic 360があればいいんですけど、360は私も楽器店では学生時代に御茶ノ水の某楽器店で中古を見たことがあるだけで、以来お目にかかったことがありません。
PRO TOOLSを導入して現在の自宅スタジオを構築した当初はベースの録音はこのベース・アンプ・セットのうち、プリ・アンプ部分のみを使って行っていました。しかしプリ・アンプのみではスピーカーを鳴らした時の空気感というか、ブーミーな歪んだ感じというのは出ないため、ちょっと物足りなさを感じていました。クリーンに録りたい時はいいんですけど、あんまりクリーンすぎるのもジャズ、フュージョン系の楽曲をやるにはちょっと違うかなという気がしていましたので。そんな時に出会ったのがこのacoustic J-BOXでした。あのacousticが出したアンプ・シミュレータということで、「ジャコの音が出るかも」と期待して購入。でもこれ、実は日本製でFERNANDESが作っていたんですね。HiとLoの2インプット、Gain,Master VolumeにBass, Mid, Trebleの3トーン・コントロール、5バンド・イコライザーを装備ということで、360というよりは、370に近い作りになっているようです。全体的な印象としてもちょっと古臭いトーンというか、それがacousticらしいといえばそうかも知れませんが、ノイズが多めなこともあって、ちょっと自宅スタジオ用途にはあまり使えず、残念なことにストックボックスの中にしまわれることになりました(^_^;)>しかしインプットしたベースのサウンドがブーミーでふくよかになる感じは悪くはなく、ジャコのトーンということを意識しなければ、Brightスイッチをオンにしてゴリゴリ弾くのにはいいアンプ・シミュレータではないでしょうか?製造台数も少なかったのか、今でも結構高値で取引されているみたいですね。一つ注意したいのが、BYPASSスイッチをオンにして赤いLEDが点灯している時がバイパス、消灯している時がアンプがオンの状態ですので、普通の感覚とは逆なので注意が必要です。これはちょっとトラップかも。
ノイズの問題でJ-BOXをアンプ・シミュレータとして使用するのを諦めた後、入手したのがLINE6 BASS POD PROでした。当時例のそら豆型のPODシリーズが人気を博していて、スピーカーキャビネットまで含めたアンプのシミュレーションをしていることに加え、エフェクトも装備していたので、これ1台である程度のことまでできるということがベスト・セラーとなった要因でした。私もS/Nの問題さえクリアになれば入手したいなと考えていた所に、ラックマウントのPROバージョンが発売になったので、早速飛びついたわけです。BASS PODはPODのベース・バージョンとして、SWR SM-400, Mesa Boogie BASS-400+, Polytone Mini Brute, Eden WT-300, Gallien Krueger 800RB, Sunn Coliseum 300, acoustic 360, Ampeg SVT, Marshall Major, Marshall Super Bass Plexi, Fender Bassmanなどのベース・アンプをシミュレーションしたプログラムが搭載されており、ベース・キャビネットもAmpegやEden, Marshall, SWR, Hartke, Sunn, acousticなどのキャビネットをシミュレーションしており、私は何しろacoustic 360のシミュレーションというのに心動かされ、購入を決断したのでした(笑)。その他にもバランスのキャノン・アウトがある事や、AES/EBUのアウトがついていて、デジタル録音の際に問題となるクロックについてもWord Syncがとれるよう、Clock In端子がついているのも評価ポイントでした。(尤も私はアナログのバランス・アウトでミキサーに入れてるので、デジタル・アウトは使ったことが無いですが)Clock In端子がついているPOD PROシリーズは実はこの初代のものだけで、以降はAES/EBUのIN/OUT両方接続してミキサーからクロック貰ってね方式になっていますので、アンプ・シミュレータにデジタル・イン/アウト両方繋ぐってどういうシチュエーションだろうって考えてしまいます。それはともかく、私の場合は殆どacoustic 360のシミュレーションでしか使ったことがありませんので、AMP MODELSのつまみはAMP 360の位置に固定したまま、或いは360のシミュレーション・プリセットである9Dに固定したままで使っていました。ただ最近は折角いろいろなアンプのプリセットがあるんだから使ってみるか、ということでプリセットをあれこれ呼び出して音色を比べてみたりしていますが、へぇこんな音色も出るんだということで今更ながら、もうちょっと使い込んでみようかと思う今日この頃(一体何年使ってるんだってことですよね)。360のトーンはというと、J-BOXよりもブライトなトーンで、フレットレス・ベースで使ってもクリアーなサウンドが得られるイメージです。丁度J-BOXのBrightスイッチを入れたトーンのような感じで、オケ中でもベース・サウンドが埋もれることは無いでしょう。BASS POD PROを使って360つぽく録音したサンプルをMusictrack.jpにあげてありますので、興味があったら聴いてみてください。こちらから。惜しむらくは、既にディスコンになって10年以上経過して、LINE6がサポートを終了してしまったことですね。当時はE-magicのSoundDiverというソフトが標準で付属していてこれでエディットとかができましたが、それも既にディスコンで、この時期のPODに対応したソフトがなかなか無いのが残念です。最近のOSに対応したものだとMIDI QUESTくらいでしょうか。
ベース用のPODシリーズに関してはBASS POD xtという後継機種がありましたが、それ以降はギター用のPODシリーズと合体されてしまい、ベース専用のPODシリーズは無くなってしまいました。CPUの性能が上がって、メモリ出来るプログラムの量が増えたので、ギターとベースを分ける必要がなくなったということなのでしょうが、ベーシストとしてはやはり専用機の方が安心できる気がします。ジョン・ウェットンが亡くなってから、キング・クリムゾン時代のジョン・ウェットンのコピーを始めて、あの頃ウェットンが使っていたHIWATTのサウンドが欲しいなと思ったのですが、BASS POD PROには無く、xtで追加されていました。それでBASS POD PROをBASS POD PRO xtにアップグレードしようかと思いましたが、なかなか中古もなく、とりあえずそら豆型のやつを安く入手したので、それを使っています。どのみち歪ませて使うので、S/Nがどうということでは無かったので、結果オーライでした。そちらの使用例はこちら。
とここまで書いたら結構な長さになってしまいました。ギター・アンプ編はまた次回に書くことにして、今日のところは一旦ここまでにしたいと思います。ではまた。